泡藤こもん

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『貴方は私のことを愛していないのね』
そんなことを彼女が言うから。
本当に、心の底から、真正、彼女を愛しているのなら出来るでしょうと、彼女は私の手に包丁を握らせた。
私の為なのだもの。やってくれるわよね。
そう、赤い唇で耳打ちした。だから。
彼女が握らせてくれなければ、柄を握る指は震えて取り落としていたに違いない。
彼女が頼んでくれたから、生あたたかい赤い血をかぶることも、生臭い臓物に塗れることも、苦では無かった。
彼女が囁いてくれたから、こんな、おぞましいことをやってのけたのだ。
彼女が、私になら出来る、任せられると、期待をかけてくれたのだから。
それなのに、いつまでたっても褒める言葉はかからない。
細く優しい指は頭を撫でてくれやしない。
やってみせたのに。いじわる。
私は迷子になった子供のように、わんわんと泣き喚いた。彼女から溢れ出た赤い水たまりの中に座り込んで、何時までもいつまでも泣いていた。

5/16/2023, 5:40:28 PM