NoName

Open App

一握の砂

石川啄木

この詩を君に捧ぐ。すでにすべてを君の前に示しつくしたるものの如し。
従って君はここに歌われたる歌の最も多く知る人なるを信じればなり。
また一本をとりて亡児真一に手向く。
この稿本を手に渡したるは汝の生まれたる朝なりき。
この稿料は汝の薬餌となりたり。
この稿本の見本刷を閲したるは汝の火葬の夜なりき。

                著者

ただ、ただ 愛しいと書いて「かなしい」 
という、心を教えてくれたあなた。

東海の小島の磯の白砂に
われ泣きぬれて
蟹とたはむる

頬につたふ
なみだのごはず
一握の砂を示しし人を忘れず

いのちなき砂のかなしさよ
さらさらと
握れば指のあひだより落つ

しっとりと
なみだを吸へる砂の玉
なみだは重きものにあるかな

たわむれに母を背負ひて
そのあまりに軽きに泣きて
三歩あゆまず

たわむれに母を背負ひて
そのあまりに軽きに泣きて
三歩あゆまず…

別れの朝 
小さな小さなあなたの手は冷たかった
幼き日
手を握りしめた
あの温もりを 探したけれど
あなたは逝ってしまって

冷たい身体が横たわっていた
それでも 我は赤子のように
あなたの小さな小さな冷たい
身体を抱き締めて
手を握りしめて

言葉にできない 
気持ちに声をつまらせていた。

青い青い
春の朝だった

言葉にできない
忘れることの出来ない

春の朝だった

言葉にできない思い

母よ… 


2024年4月11日 

               心幸



   

4/11/2024, 2:55:29 PM