「……ん」
両手をお椀みたいにしてくれと言われて従うと、色とりどりの小さな粒がいっぱいに降ってきた。
「これ、こんぺいとう?」
「そう」
普段から口数の少ない彼はただそれだけを返した。
どことなく窮屈そうに見えるこんぺいとうを、たとえば空に放り投げたら史上初の色付き星に変身して、毎夜眺めるのが楽しみになるんじゃないか、なんて絵本みたいなことをつい考えてしまう。
でも、いきなりなぜ?
「わたし、こんぺいとう食べたいって言った?」
サプライズを仕掛けるような性格ではない。絶対理由があると、長い付き合いでわかっていた。ストレートに訊いても素直に答えてくれないときがあるので、わざわざ回り道をした。
やっぱり口ごもっている。よく観察してみるとうっすら頬が赤い。もしかして照れてる?
「……星」
視線に耐えきれなくなったのか、ぽつりと彼がつぶやいた。偶然にも、さっきの妄想と重なる。
「星、ってあの、夜空の星?」
頷いた彼は片目だけをこちらに向けた。
「星、掴んでみたいって前に言ってたろ」
少し記憶を巻き戻して、あっと声を上げる。
二人で遠出した帰り、ふと夜空を見上げてみたら思いのほか星が見えて、手を伸ばしながら子どもみたいなことを言った。
『冬は星がよく見えるね。今のうちに掴めたらずっとあのきれいなのを眺めていられるのにねぇ』
彼は茶化すことも真面目に返すこともしなかった。内心呆れて流されたのかなと思っていたのだが……。
「もしかして、このこんぺいとう、星のつもり?」
「星に見えるだろ。星みたいだって言ってるの、漫画で見たことあるし」
よほど恥ずかしいのか口調が多い。
「それに、こういうことしてやるのが、彼氏の役目なんだろ」
突然のそれは、正直反則だと思う。
「あ、ありがと。でも無理しないでいいんだよ」
熱くなってきた顔をどうにもできず、無駄に焦り出す。
「無理なんかしてない。オレがやりたいと思ったから」
彼はちょっと怒ったみたいだった。
そうだった、彼は行動したいと思ったら素直にやる性格だった。
「ごめんね。びっくりして、嬉しすぎたの」
このままじゃ、わたしの手の中で星は溶けてなくなってしまう。
「ね、早く帰ろ? このこんぺいとう、きれいなお皿に入れてあげたいんだ」
幼なじみから恋人に変わったばかりの彼は、少し笑って頷いた。
お題:星が溢れる
3/15/2023, 3:14:00 PM