放課後の教室、机の上には、進路希望調査の紙。
「てぁ〜俺たちまだ高二じゃん」
「もう、高二だけどな」
「まーだ進路のこととか考えたくねぇ・・・高木は?大学、どこ行くの?やっぱ東大?」
「まだわからない」
「だよな〜俺なんてどうせ、私立文系の大学行って、テキトーに満足いくまで遊んで、就職して、この狭くて暑くて空気がベットべトした国で一生を終えるんだろうな」
俺はなんとなく下を向いた。わかってるつもりだったけど、やっぱこういうのは、口に出すと辛い。
きっと、俺は高木みたいに頭もよくないし、他の才能もないから、ここじゃないどこかへは、多分一生行けない。
「俺は・・・お前は、そうはならないと思うぞ」
俺は高木の横顔を凝視したが、西陽で逆光になっているため、表情がよく見えない。
「・・・なんで?」
「お前は、すごい奴だからだよ。新学期、クラスの奴らから距離を置かれていた俺に、お前が話しかけて、そこから段々と俺も輪に入れるようになっていった」
「はぁ?そんなの、別にフツーだろ」
「誰にでもできることじゃない」
しばらく、静寂が空間を満たした。
「あのさ、高木は大学行って、どうするんだよ、その後は」
俺よりもはるかに頭のいいコイツが何になるのか、どういう風に将来ってものを捉えているのかが気になった。
「俺は・・・国をつくる」
「くに?国って、あの、日本とかアメリカとかそういうことか!?」
「ああ、言ったのはお前が初めてだ。荒唐無稽なのはわかっている。笑ってもいいぞ」
「笑わねーよ!すげぇじゃん!お前、やっぱホントにすごい奴だったんだな!」
「え・・・」
高木は俺の反応が意外だったのか、驚いてズレた眼鏡の位置を正した。
「国をゼロからつくるってさ、どんな感じなんだろーな。高木は、どういう国をつくりたいんだよ?」
「俺は・・・いろんな奴が自由に好き勝手に生きられる国をつくる」
高木は一瞬だけ凶悪そうな光を目に浮かべた。
こんなに表情豊かなコイツは初めて見るかもしれない。
「そ、それって無法地帯を作るのか?」
「かもな」
そのとき、最終下校時刻を告げる放送が流れ、俺たちはバタバタと荷物をまとめる。
俺の夢は、いつか見つかるのだろうか。
俺の友達はいつか、本当にどこかの国の王様にでも、こいつならなっちまうんじゃないか。
今日の高木は、なんだかそう思ってしまう雰囲気があるのだ。
「何ぼーっとしてんだ。早く帰るぞ」
考えごとをしたまま突っ立っている俺を高木が振り返る。
「お、おう」
俺は、慌てて高木の学ランを追いかける。
何故か、その背中は、まったく知らない奴のもののように、その時の俺には思えた。
2/21/2023, 4:44:53 PM