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ある日の朝、ジャケットに腕を通そうとしたら右肩に激痛が走った。
「いっっったぁ!!」
半端にジャケットをぶらさげたまま、肩を押さえてうずくまる。
なんだこれ。
ちょっと、今まで経験したことのない痛さだ。一応肩を押さえてはいるものの、本当に痛いのがその場所かどうかもわからない。なんだかどこもかしこも痛い気がする。しかも全然収まる気配がない。
幸い他の身支度は済んでいたので、亀よりもゆっくり慎重に、5分くらいかけてジャケットに右腕を通した。とりあえず会社に行かなければ。
歩くだけでも振動が伝わって痛みが増してくるような気がする。せめてもの気休めに、カバンをぶらさげた左腕で右腕を支えるようにして歩いてみる。腕組みをしたまま歩くのも傍から見たらおかしく見えるだろうが、この際そんなことは言っていられない。
左腕のささえのおかげで右腕への刺激はだいぶ和らいだようだった。しかし今度は右腕とカバンを支え続けた左腕に限界が近づいていた。じわじわとしびれるような重みが腕全体に広がる。カバンがずるずるとずり下がってきたが、どうすることもできない。
そうこうしているうちに、ようやく駅に着いた。
座ろう。座れさえすればなんとかなる。
祈るような気持ちで電車を待つ。

電車は満員だった。

うん。休もう。

わたしは力無くホームのベンチへ座った。

有給をもらって行った整形外科で、「五十肩ですね。」と告げられた。
わたしはまだ32だ。
そう(控えめに)抗議すると、医師は「まあ、病名なんでね〜、あははは」と笑った。
何がおもしろいんだ。

家事をする気が全く起きなかったので、帰りにおにぎりやらなにやらを買い込んだ。お財布をかばんから出すのにもひと苦労だ。エコバッグを出す時に痛みで動けなくなっていたら、見かねたレジのおばさまが袋に入れて渡してくれた。
「袋、サービスしといたよ」
若いのに大変ね、と声をかけられ、ちょっと泣きそうになって自分で自分にびっくりした。

寝る前、もらった痛み止めと湿布を貼ってみたものの、効いている気が全くしない。
上を向いても痛い。
横を向いても痛い。
そもそもうつぶせになれない。
痛くて眠れない。
「五十肩だよ」
医師のコトバが頭の中でよみがえる。
悔しい。
なんでわたしがこんな目に。
痛い。
ばか。

眠れない夜はまだまだ長い。

12/5/2023, 12:32:22 PM