お題《通り雨》
青い狐面と椿の少女。
「あらあら。また泣いてるの」
鈴のように透った声。
椿の花飾りをあしらった巫女服の少女。
椿の枯れない冬の庭は、少女の聖域。
青い狐面をかぶってるのに、すぐ見破ってしまう。巫女だからなのか、それともずっと寄り添い生きているせいなのか。
「ここには夏がこないから。あなたを見ていると、体験したことのない夏を想うことができるから幸せ」
――天藍(てんあい)望んでくれ。
君が「連れて逃げて」と言ってくれたら……。
「ありがとう彩貴」
わかってる。
わかってるよ。俺の好きな君は、そうはしないってこと。
君が嫁いだ日。
通り雨が庭の椿を濡らし、散らした日。
9/27/2022, 11:20:38 AM