Ayumu

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「あのね、聞いてくれる? この間あいつがね!」
「まーたくだらないことでケンカした?」
「くだらなくない! 今回は絶対あっちが悪いもの」
 もう、本当にもう見守ると決めたから、今さら出しゃばるつもりはさらさらない。
 けれど、時々妄想してしまう。
 もし告白していたら、あいつと付き合っていたとしても諦めずにいたら、と。
 俺たちが彼女と出会ったのは、クラスメイトになったとき――スタート地点は同じだった。いつしか三人でよく絡むようになって、たぶん俺が彼女を気にし始めたのと同じくらいに、あいつも惹かれていた。
「ちょっと、聞いてる!?」
「はいはい、聞いてる」
 俺は二人のことが大切だから、なにより彼女の心がはっきりとあいつに向けられているとわかってしまったから、流れるように今の席に座った。
「全く、毎度毎度懲りないねぇ。ま、愛し合ってるのは充分わかってますけど?」
「なっ、ちが……わかないけど!」
 ここで否定しないのが彼女の微笑ましいところだ。
「でも、こっちこそ毎度毎度ありがとね。あんたがいなかったから私たち、きっとうまくやれてない」
「え。なによ急に」
「いつも思ってたことよ。もちろんあいつも」
 こういうときの彼女の瞳は曇りなくきれいな輝きを放っている。誰も逸らせなくなってしまう力も、持っている。 
「……なにか見返りをお求めで?」
「もー、そんなわけないでしょ! すぐそうやってはぐらかすんだから」
 はぐらかさないといけない気がした。こういう予感は悲しいかな、よく当たる。
「ま、だからいつでも悩んでること言ってね。どんな内容でも、絶対に受け止めるから」
 声が詰まる前に、口を開いていた。
「それなら、今言っちゃおっかな。君たちカップルがもっと平和にならないかなーって」
「……ほんと、素直じゃないわね」
 さっきの馬鹿げた妄想は、また深い深い場所へとしまい込んだ。
 この世界は、誰にも壊させない。


お題:あなたに届けたい

1/30/2023, 4:03:49 PM