逆井朔

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お題:終わりなき旅
 やあ、おはよう。あれから二週間は経ったんだが、気分はどうだい?
 普段通りか。そうかそうか。それは重畳。
 身体のどこかに違和感はないかい? 痛む場所は? ふむ、特に問題なしか。
 君が被検体になると自ら申し出てくれた時には本当に驚いたよ。僕がしている実験の話をいつも怖がっていたしさ。
 こちらとしても、怖がるのも無理はないと思っていたよ。それなりに酷いこともたくさんしてきているからね。
 古来より、欲の深い資産家(スポンサー)が追い求めてやまない不老不死。それを成すために、僕たちは本当になりふり構わずありとあらゆることを試してきていた。その結果、今回君に受けてもらった身体のパーツの取り換え手術にたどり着いたって訳だ。まぁこの辺は君に何度も聞かせていたことだから、そろそろ耳にタコができていてもおかしくはない頃だね、ははは。
 神経回路なんかはそのまま活かさせてもらっているけれど、まぁ当初の話通り、君の身体はほぼ全て機械化させてもらっているよ。機械ではあるけれど、一般的な人間と大差のない容貌に色々手を加えて調整してある。ついでに言うと、二週間前の君と見た目上はほとんど変わらないように作り上げてあるから安心してもらっていい。
 とはいえ、君に被検体となってもらったことからも分かるように、まだこの方法の安全性や有効性は未知数にある。つまりは発展の途上にある訳だ。もしかしたらこの先、君の身に僕らですら予想し得ないような何事かが発生する可能性もあるということでもある訳だ。事前に伝えてはいたけれど、改めて伝えておくからね。
 君が被検体になってくれたからには、僕も必ず約束を守ろう。君の弟や母親がこの先、食いっぱぐれないように経済的な支援は惜しまないし、君の想いに最大限報いるつもりだ。
 これから先、君は永遠の旅のような人生を送ることになるだろう。まぁ、この手術の安全性や有効性がはっきりとしたら、の話ではあるから、まだ「取らぬ狸の皮算用」かもしれないがね。
 それでも、僕は現段階でも既に今回の手術に関しては結構自信があるんだ。これまでのトライアンドエラーのおかげで、過去の被検体のデータもそれなりに集まっていたしね。
 それで、君のこれからの話になるんだけどさ。
 僕が生きている内は君のメンテナンスをしっかり行おう。君自身にも、そのやり方はおいおい少しずつ手ほどきしていこう。そうすれば、僕がこの世を去っても君が一人で生きていけるだろうから。
 そう、君はこの地球上の誰よりも長生きするんだ。そして、この国や世界中の歴史、文化の変化などを見守り続けて、できるものなら記録にまとめてほしい。
 今、僕たちの研究と並行してコールドスリープの技術もあちこちで盛んに行われている。もしかしたら、いつか僕らが死んで随分経った頃、コールドスリープから目覚めた人がその記録のデータを指標に生きていくかもしれないからさ。え? 責任重大だ、って? 大丈夫。同じことを頼んでいる被検体はたくさんいるから、そこまで気を揉まなくていい。
 ああいや、そうじゃない。君を信用していないのではなく、情報は多ければ多いほど精度が増すからね。
 まぁ、とはいえ、まずはあと数日はこのまま無理せず静養したほうがいいだろうね。
 とりあえず、僕からは今のところこのくらいかな。
 それでは、また。夜に様子を見に来るよ。それより前に何か用向きがあれば、枕元のナースコールを押してくれ。

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個人的備忘録
・執筆時間…約1時間
 これまでの作品もそうだが、書いている途中に眠くなりながら後半の方は書いている。大体夜22時以降に書き始めていることが多いからだろう。

5/30/2024, 2:35:20 PM