元旦はゆっくり起き出してお母さんが作ったお雑煮を食べた。鶏肉の入ったしょうゆ味のすまし汁、子どもの頃から食べていた味だ。
「おいしいです。温まりますね」
ナオにも気に入ってもらえたみたいでよかった。
「お雑煮って地域によっていろいろあるのよね。ナオさんのお家では、どんなお雑煮だったの?」
あっ、と思ったがナオを見ると、私に大丈夫、という視線を送っている。自分で話すつもりみたいだ。
「私、実は両親を事故で亡くしていて。小学生のときだったんですけど、それからは高校を出るまで施設で暮らしていたんです」
「そうなの」
お母さんは穏やかに言った。
「そこで出てくるお雑煮は、野菜ばっかりでした。ほうれん草と里芋と、しいたけも入ってた。…味はかつお出汁でした」
「へぇー、カツオのお出汁もおいしそう!」
私は少しでも楽しい空気になるように明るく言った。
「懐かしいな。あの頃はすごく賑やかでした。そういう施設って、結構ちゃんとお正月っぽい遊びをやるんですよね。小さい子は福笑いとか、ちょっと大きくなると羽子板とか凧揚げとか。みんなで大騒ぎしてました」
ナオの子どもの頃の話、こんなに聞いたことなかった。
「そう、とても大きな家族で育ったのね」
ナオは少し驚いたような顔をした。それから表情を緩めて
「そうですね」
と言いながら笑った。
越谷にいるからと言って、わざわざ埼玉の大きい神社まで行くこともなく、初詣は私の実家から歩いて行ける神社に詣でることになった。
お母さんとナオと三人で、お賽銭の長い行列に並ぶ。
「毎年ここに来てたよね」
「カナデはここで巫女さんのバイトしてなかった?」
わ、思い出した。大学生のころ、一年だけやったことがある。
「そうそう! 助勤ね。巫女さんのカッコした写真どっかにあるかな」
スマホの中を探すが古すぎて出てこない。
「カナデが巫女さんか。え、黒髪指定だよね。全然想像できないな」
ナオがつぶやく。たしかに今の姿からは想像できないかも。
「私、年越しの時間に当たっちゃって、夜中から朝まですっごい寒くてすっごい忙しくて! もう次の年はいいやって思っちゃった」
あの大晦日の寒さは忘れられない。
気づけばあの頃と同じように手水場が復活していた。みんな何事もなかったかのように手を清めている。
お参りの順番が来た。三人並んでお賽銭を投げ入れ、神様にお祈りをする。ここに来るといつも後ろの人が気になって集中できない。そうしていたら流れで順番が終わっている。
「ナオはなにお願いしたの?」
帰り道ですぐに聞く。なんでも言っちゃう性格で、普段から突撃していると遠慮なく聞ける。
「お願いっていうか、感謝かな。去年一年間を無事に過ごせたことだったり、人との出会いを与えてくれたことだったり。それで、今年もよろしくお願いしますって」
「わー、大人な人だ。お母さんは?」
「私はみんなが健康で暮らせますように。それだけよ」
やっぱりみんなちゃんとしてるなぁ。
「そう言うカナデはどんな願い事?」
ナオがいたずらっぽく聞いてきた。
「なんか私が子どもっぽいから言いたくなーい。あはは」
「なんだよそれ」
ナオがあきれた声でツッコむ。結局みんなで笑っていた。
私の願いはひとつだけ。こんなふたりの日々が、いつまでも続きますように。
1/2/2025, 2:11:53 AM