部屋の隅に高く積まれた本たち。
そのジャンルは様々で、話題の作家の代表作や頭を捻っても分からない漢字を組み合わせた名前の人が書いたこれまた四字熟語みたいな題名の本があった。
ペラペラとページを捲ってみるが何一つ分からない。
「貴方そんな本読まなそうなのに…好きなの?」
自然と上目遣いになる先生が可愛い。
クルクルと回転する椅子に座ったまま私の顔を覗き込んでくる姿には胸が打たれた。
「い、いえ、まったく…今だってパラパラ捲ったら文字が多すぎてびっくりです。先生は好きですか?これ、」
「ふふ、そうだなぁ。俺も文字がいっぱいで無理かも、」
くすりと笑って先生は私の手から本を取り上げた。
隅々まで手入れの行き通った指先が日に焼けた本を掴む。
「死を考える事はよりよく生きることである」
先生のよくとおる声が本の中の1文を読み上げる。
「死を?いきる…?」
「つまり、死ぬ事と生きる事を切り離して考えることはできないってことだよ。君には少し難しかったかなぁ?」
挑発的な表情を浮かべる先生も可愛いがやられっぱなしはなんだか悔しい。
「じゃあその本、借してください!読みますから!」
そんなに怒らないでよ、とにやにやわらった先生は私の手のひらにぽん、と本を置いた。
その上にはゴッホのひまわりを象った金色の栞。
これは先生の私物だろう。キラキラのひまわりが眩しい。
「特別授業ってことで感想文でも提出してもらおうかな」
先生が口にしたトクベツという言葉は舌の上で転がすには妙に甘ったるかった。
2023.12.7『部屋の片隅で』
12/7/2023, 2:16:13 PM