『凍てつく星空』
皮膚を割くような凍てついた空気に肩をすくめた。
クッソ。
遅くなった。
いちいち会議を長引かせやがって……。
湧き上がる悪態をため息で逃し、白く色づいたもやを目で追った。
自然と視線が空に向かい、夜を彩る星々がポツポツと控えめに散らされている。
遠慮がちに描かれた星座が弱々しいのは、等間隔に並ぶ街灯のせいか、薄白く曇った眼鏡のせいか。
どちらにせよ、澄んだ星空を鑑賞するには少し物足りなかった。
*
帰宅すると、全ての部屋が常夜灯になっていて仄暗くなっていた。
まぁ、寝てるよな……。
あと1時間もしないうちに日付が変わる。
これから年末まで試合が続く彼女のスケジュールはハードだ。
少しでも顔を合わせたかったが、仕方がない。
なるべく音を立てないようにシャワーと食事をすませた。
寝支度を整える前に寝室を覗き込む。
ベッドでは彼女が両腕を大きく広げて眠っていた。
ちっちゃ。
悠々とスペースを使っているが体が小さいからか、ベッドのほうが大きく感じる。
毛布からはみ出た右手の指を絡めると、ひんやりとした指先が風呂上がりの体温をさらった。
「……ただいま」
このまま彼女の体を冷やしてはかわいそうだ。
彼女の手を毛布の中にしまい込むと、健やかな寝息が乱れる。
眉を寄せながら頭を2、3度振ったあと、彼女はペンペンと毛布を蹴飛ばしてしまった。
「えぇ……」
足グセ悪すぎだろ。
しかも寒いのか、体を丸めて縮こまっている。
チグハグな行動にフッと口元が緩んだ。
「ごめんね」
彼女に毛布をかけ直したあと、俺もベッドに潜り込む。
眼鏡をベッドボードに置き、携帯電話のアラームをセットした。
その少し目を離した隙に、彼女が寝返りを打って再び毛布を跳ね除けようとする。
最初こそは俺がちょっかいをかけたせいだが、寒いのに毛布を嫌がることに違和感を覚えた。
肌触りがよくないのかな?
落ち着いたらそれとなく探ってみるか。
そんな決意とともに毛布を被ったまま彼女を包み込めば、強張った体が徐々に弛緩していった。
規則正しく上下する細い肩のリズムが心地よく、俺も微睡んでいく。
彼女の丸々な頭頂部にキスをしたあと、意識を手放した。
12/2/2025, 3:51:18 AM