にえ

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お題『1件のLINE』

 前の主様が亡くなった日のこと。

 前の主様——便宜上、以降主様と表記——の持ち物の中にあった、手のひらに収まるくらいの赤い板から突然音が聞こえてきた。
 板の表面は光っていて、何か文字が刻まれている。主様の私物を勝手に見るのは良心が咎めた。けれどそれ以上に、文字が浮かび上がる板に興味が沸いてしまった。

 主様は以前、その板のことを『フェネスのイメージカラーにしたの』と言いながら見せてくださったことがある。『これはカメラもついていて、この世界のカメラみたいに長い時間じっとしていなくてもいいの』ともおっしゃっていて、何枚か撮っていただいたこともあった。『アルバムがなくても持ち歩けるの』と言い、俺と主様が一緒に写っている写真を表面に貼り付けて、とても大事そうにしていらっしゃった。

 その板に、わずか2行ほどの文章が見てとれた。
【お誕生日おめでとう。ずっとずっと、愛してる】
 その文字が消えた途端、戸惑って引き攣り笑いの俺と最高に幸せそうな笑顔の主様の画像も消えてしまった。
 一体誰からの、誰に宛てたメッセージだったのか。
 折しもその日は主様の誕生日であり……主様が俺にくださった、俺の誕生日でもあった。

 その時以降、その板は音を鳴らすことも、光ることもなくなった。主様のあの眩い笑顔はもう俺の瞼の裏にしか存在しない。

7/11/2023, 11:33:27 AM