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茶碗が欠けそうだ。

使う分には今のところ問題はないのだが
指で軽く弾くと何とも不安定な音がする。

何かの拍子に割れてしまいそうな
そんな不安が過る音だ。

そろそろ買い替えも視野にいれるべきなのかもしれない。

そう思いつつも割れそうな不安定な茶碗で、
今日もご飯を食べる。

白米美味しい。

そんな事を思っていたのは
つい先週のことだ。

私の目の前にはパカリと見事に割れた茶碗がある。
ご丁寧に白米も犠牲にして。

それはあまりにも一瞬だった。
白米を茶碗によそってテーブルに置いた瞬間カンッと軽い音がした。

そうしたらこの有り様である。
割れた茶碗入りご飯の完成だ。
あぁ…。

夕暮れのデパートは人で込み合っている。
お目当ての階へ向かい、ようやく辿り着いたのは陶磁器等が販売されている食器売り場だ。

割れてしまった茶碗の代わりになる物を探す為、直帰したい気持ちに蓋をして、職場から二駅離れたこのデパートまでやって来た。
直帰したい気持ちと時間を捧げたのだから、
是非とも良い茶碗を手に入れなくては。
意気込んで売り場を巡る。

椿柄や波、市松模様、吉兆紋様。
瀬戸焼、備前焼、信楽焼、波佐見焼。

様々な色と顔を持つ焼き物は実に面白い。
目移りする中、一つの茶碗と目があった。

笠間焼の銀と青が美しい茶碗。

─これだ。

脳裏に言葉が閃くと同時に、茶碗に向かって手を伸ばす。
もう少しで茶碗に手が触れそうなところで
手が失速した。
茶碗の側に掲げられたプライスカードの四文字が目に入ったからだ。

夫婦茶碗

そう掲げられたお目当ての茶碗の隣には、
大きさの違う茶碗が仲良く並んでいる。
二つの茶碗は大変仲が良く、
プライスカードの中でも一つの値段を共有していた。

独り身である為、2つの茶碗は必要ない。

いつかのために今買ってしまうか?なんて思ったが…。

いつか、大切な人と選びたい。

私の密かな願いなのだ。

密かな願いの為に好みの茶碗を諦める。
ロマンチストは損だな、チェッ。

11/22/2023, 11:05:39 AM