わたしは、あなたの眼差しが好きだった。
全く生気の無い、しかし、どこか秘めた悟ったような目が好きだった。
あなたの灰色の目と、赤色の髪が好きだった。
あなたを色恋の目で見たことは無かったけれど、
どこか、母親のような目で見ていた。
きっと、あなたを昔から知っていたからだろう。
あなたには、本当に助けられた。
当時には珍しく、わたしを女だからと軽蔑すること無く、
主君として仰ぎ、奉ってくれた。
あなたが居なければ、わたしは早々に死んでいただろう。
わたしたちの生きている時代は、封建主義と民主主義の狭間の時代。
ポンパドゥール夫人、女帝マリア・テレジア、哲人王フリードリヒ、
などの著名な人物とわたしたちの歳近く、やっとの思いで生かされた。
老いた者の愚痴だが、本当に大変な時代だった。
しかし、あなたという青年が心身を削ってまで努めて、
わたしを、わたしたちの家を荒波から生かしてくれた。
この恩は、永遠に忘れられぬよう後世に語って伝えましょう。
あなたは、わたしより十歳は若いのに、
あなたの齢は、高く見積もっても…まだ三十五なのに、
欲を言えば、もう少しだけ……、
わたしのような老いた者より生きて欲しかった。
救いは、あなたの死顔は本当に安らかだったこと。
それだけは、本当に良かった。
あなたの生涯は、わたしから見れば本当に波乱の連続で過酷だったから。
あなたの主君として、最後の命令です。
どうか、これからは安らかに睡るが良い。
今迄、本当にありがとう。
2/20/2025, 1:47:03 PM