池上さゆり

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 学校生活というのは実につまらなくできている。校則でおしゃれや寄り道が禁止されている。授業を受けて、部活行って、課題をこなすだけの毎日。
 こんな日常を壊してくれる何かをずっと探し求めていた。
 そして、それは突然訪れた。
 転入生だった。モデルのようなスタイルに、人形のように整った顔。風になびく輝かしい金色の髪に、吸い込まれそうなほど透き通った青い瞳。
 目が合っただけで、胸が高鳴った。偶然、席が隣になったおかげで会話することは多かった。どこを切り取っても綺麗で、会話をするたびに目のやり場に困っていた。それでも、目を離すことはできなくて、授業中隙を見つけては、その横顔をうっとりと見つめていた。
 ある日、中庭で一緒にお弁当を食べたいと誘われた。ウキウキな気分で休み時間を待った。ついに、その時間になって雑談しながら中庭に向かった。中庭の中心には立派な桜の木がある。花壇もあって、隅にはベンチも置いてある。影のある場所に座って、私たちはお弁当を広げた。
 そして、いつものように雑談をしていたが、転入生が急に黙ってしまった。何か悪いことでも言ってしまったかと心配した。
「わたし、あなたのくろいかみやめがすきです。あなたはとてもうつくしい」
 突然の褒め言葉に驚いた。私なんかよりもずっと綺麗な顔をした転入生にこんなこと言われるなんて思ってもいなかった。
「私も、あなたの青い目や金色の髪が好きよ。全部が好き。あなたのことが、好きなの」
「それはライクじゃなくて、ラブですか」
 こくりと頷いた。顔が暑くて、全身から汗が出ているのがわかる。指先は震えていた。そんな手を彼女はぎゅっと握ってくれた。
「わたしも、あなたのことあいしてるです」
 こんな幸せがあっていいのだろうか。指先を絡めあって、初めて交わしたキスはどんなものよりも甘かった。

6/23/2023, 10:12:42 AM