西の空に夕陽が落ちていき、雲の縁を赤く染めていった。ここに座って何度となく見た風景だ。自分の家から見る景色を除けば、わたしの人生で一番多く見た風景に違いない。
何度足を運んで来てみても、ここで繰り広げられるドラマにはひとつとして同じものはなかった。数多くの挫折や失敗を、ほんの一握りの歓喜を、一瞬の栄光を、静かな終わりを、このグラウンドは数え切れない感情をわたしに見せてくれた。
「まさかこのスタジアムの最後を見届けることになるとはね」
マサさんが言った。何度も隣でゲームを観た仲間だが、年齢も連絡先も何をやっている人かも知らない。ここに来て、そこに居れば、一緒に見るだけだ。そんな関係で数十年も同じ景色を見ていた。
「お互い年を取ったね」
わたしはポツリとつぶやいた。
「寂しくなるな。なにも取り壊すことはないのに」
マサさんにとっても思い出が詰まった場所なのだ。
「いやぁ、この球場も年を取ったってことさ。座席の裏は錆びてるし、人工芝なんて剥げかけてる。あそこの電光掲示板だって、穴ぼこみたいに光らないところがいくつもある」
どこを見たってボロボロだ。本当に長く使い過ぎた。わたしは無意識に自分の腰に手をやった。
「新しいスタジアム、なんかいろいろ言われてるよな。あっちができたら、行くのかい?」
「そりゃあもちろん。俺は体の動くうちは通わせてもらうよ」
そこではきっと、また新しいドラマが見られる。新しいものが見られるうちはまだまだ若くいられる気がするから。
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このアプリで毎日投稿を続けて200作品を超えました。
私事ですが、ここを節目にこれからはゆったりしたペースで投稿していこうと思います。理由はお題がさすがに「エモ」に寄りすぎているから、です。あとは、どう考えても毎日2000文字の物語を書くためのアプリではないと気づいた、というのもあります。本当に悩みながら毎日書いていました。これまで♡をいただいたみなさま、ありがとうございました。
4/12/2025, 11:58:46 PM