『星に包まれて』
カメラのフラッシュを浴びる彼女の存在は、どこか遠く感じた。
輝かしい栄光に包まれているのに、澄ました表情を崩さない。
一等きらびやかなメダルを掲げているのに、彼女は予定調和といわんばかりに淡々としていた。
よそ行きの笑顔と、口調、仕草で振る舞う彼女は光に包まれる存在ではない。
影すら消してしまう強い光で辺りを白く包む、光源そのものだった。
*
約1週間ぶりに自宅に戻ってきた彼女は、少し痩せていた。
「ただいま」
帰ってくるなり、ギュウッと彼女から抱きしめられた。
彼女の小さな背中に腕を回して、俺も抱きしめ返す。
「おかえりなさい」
今にも眠ってしまいそうな彼女の小さなポニーテールに飾られた深紅のハンカチをそっとほどいた。
四隅に金色の星の刺繍が散りばめられた、クリスマス仕様のデザインは、彼女の青銀の髪の毛によく映える。
髪の毛が絡まないように気をつけながら、ポニーテールも崩した。
細くて柔らかな毛先が指の間を抜けていく。
キラキラと、簡単に玄関の光の影響を受けてしまう横髪を掬ってキスをした。
家を出たときと変わらない、気合の入ったハンカチと同じ深紅に色づいた唇に、自然と視線が移ろう。
艶やかな赤色を崩したい衝動を必死に抑えた。
俺を抱きしめていた腕の力が抜け、体重を預けてくる。
そして、誘い込むように彼女の瞼が重たげに伏せられた。
「こら」
かわいいけどな?
かわいいが、これは決してキスをせがんでいるわけではない。
「まだ寝たらダメですよ?」
寝かせてあげたい気持ちはあるが、この気合の入ったメイクは落としてもらわないと。
「がんばってメイクを落として風呂に行ってください」
「面倒くさぃ〜……」
ダメだこりゃ。
彼女の活動限界がとうに超えているのはわかっていた。
だが、このままでは彼女のふわふわもちもち肌に負担がかかってしまう。
ニキビなんてできてしまっては、痛いだろうしかわいそうだ。
しかたない。
あまり使いたくない手段だが背に腹は変えられない。
俺は彼女の耳元に唇を近づけた。
鼻腔をくすぐるシトラスの香りのする耳朶を食む。
「み゛ゃうっ!?」
ビクッと大きく肩を震わせた彼女は、朧げだった意識を覚醒させた。
「起きました?」
「あっ、やっ、そこでしゃべっ!? ンっ」
耳の軟骨に沿って舌を這わせれば、彼女の声が一気に色づいていく。
形のいい眉をハの字に下げ、頬を紅潮させた彼女は俺の胸を押し返した。
起きてくれるのはいいけど、俺が我慢できなくなるんだよな……。
「俺が手伝えるのは服を脱がすことか、あなたの歯を磨くことくらいですよ?」
「自分でやる」
きまり悪そうに唇を尖らせて拗ねる彼女に俺はうなずく。
「ええ。ぜひ、そうしてください」
昂る欲の責任は明日にでも取ってもらおう。
ほどいたハンカチとヘアゴムを彼女に握らせ、彼女を浴室まで促した。
12/31/2025, 8:52:33 AM