神木 優

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「メグちゃん、この世界に神様はいると思うかね?」
 師匠は読書に飽きたらしい。放課後の教室でそんな質問をした。
「わかんないですよ。そんなこと急に言われても」
 師匠の突発的な質問にはいつも困らさせられる。哲学かと思いきや歴史だったり、宗教かと思えば倫理観だったり。人とは違う考えを持っている師匠の脳の中を覗いてみたい。
「僕はね、神様はこの世界にいないと思う。でも、いてくれたらいいなって、そう考えてる」
 師匠にしては珍しく結論がわかりやすい。明日は雨でも降るのだろうか? いや、雨じゃなくて槍かもしれない。
「もしも、だ。もしも神様が存在して、急に人間世界に降り立った時、なんて言うんだろうか?」
 頭で考えず口先だけで答えてみる。
「それは『愚かなる人間よ、滅びなさい』ですかね?」
 師匠は鼻でフッと笑った。私の答えがさぞお気に召したようだ。メグちゃんは野蛮だなぁ〜、と、師匠は言って言葉を続けた。
「多分だけどさ、神様って馬鹿なんじゃないかな? 宗教を批判するわけじゃないけどさ、世界で一番信仰されているキリストの神様、エデン作ってアダムとイヴ……エヴァだっけ? 作り出してさ、その土地に食べてはいけないとされている『知恵の木の実』なんてものを植えてね。そんなの食べるに決まってるじゃん。多分ヘビがいなくても食べたね。僕の人生のこれまでを賭けてもいい」
 そう自分で言って笑っている。私にはどの部分が面白いのか分からない。ヘビがいなくても、の部分だろうか……。
「食べちゃだめなら最初から植えなければいいのに。そう考える人は多いだろう。でも神様は植えた。だから馬鹿なんじゃないか、と僕は考えている。それで、もし神様がこの世界に降り立って何か言うのであれば、そりゃー『個々人の願いを叶えに来ました』の一言じゃない?」

7/27/2024, 9:52:01 PM