沼崎落子

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昔は子どもなんて泣くだけのうるさい存在だと思っていた。蹴っ飛ばしてやろうかなと思っていたし、うるせーし、可愛いって言うやつの気持ちがわかんねーし、何言ってるかわかんねーし、うるせーし。赤ん坊を育てたいという部下たちの言葉に「物好きだ」と思っていた。

今では目の前のふにゃふにゃな潰れそうなその命をずっとみていたいと思う。
部下が、仕事のせいで入院していて、その間に奥さんが産気づいたとかでおれが代わりに一緒に連れ添った。さすがに一人ではまずいと思った。
赤ん坊が生まれた時の声はあの小さな体のどこから出してるんだろうと思うほどでビックリしたし持ったらとにかく熱って感じだし口の中に当たり前に歯はないし笑ってるし指をつかんでくるし。父親じゃないのに、おれは父親になったと思った。

子どものことは今でも好きじゃない。うるせーし、あの小ささで歩き回ってたら蹴っ飛ばすと思うし、何言ってるかわかんねーし、そもそも親も放置すんなとか、母親にだけ任せんなとかいろいろ思うことはあるのだが。
ただまあ、赤ん坊が健やかに育ってほしいという願いは持つようになって部下の家にあったとんがった机はすべてヤスリで削り倒した。ぶつかる前にこういうのはやっとくもんだ。

5/5/2023, 10:36:24 AM