「おうい、姫子!」
朝。登校中、交差点のところでびっくりするぐらいの大声で呼ばれた。
「天野くん」
見ると、横断歩道の向こうで、彼がぶんぶん手を振っている。
私はおたついた。あ、朝から、あんなおっきな声で。みんな見てるし・・・・・・・んもおおお~
「おはよ、会えたな、ぐうぜん」
駆け足でこっちに渡ってくる。私は、「声、大きいよ。恥ずかしいじゃない」と抗議。
でも、天野くんはにこにこして「なんで?呼んだだけだよ」と私の手を取った。さりげなく。
「え……」
出会った時から天野くんはとても強引な人。でも、私に触れたことはなかった。なのに今朝は、普通に手を握って私の前を往く。
横断歩道を渡り終えたあたりで、私は我に返った。
「天野くん、--手、手!」
振りほどこうとして、できない。天野くんは私に指摘されやっと気づいたみたいに「あ、ああ」と握っている手を見やる。
つないだ手。
「俺たち、天の川の向こうとこっちとに離れてたじゃん? 前世で。だから、弱いんだ、道とか横断歩道とか歩道橋とかに遮られるの。お前が向こう側にいると、いるのを見ると、居ても立ってもいられなくなる」
びっくりすぐほど心許ない目をして、彼は言った。私は彼が私の方に向かって、歩道を駆けてくる様子を思い出す。
「……天野くん」
「ん?」
「私、憶えてないから。っていうか、まだ信じてないし、私たちが前世で織姫彦星だったって。ただ、名前が似ているだけでしょ」
そう言うと、にかっと笑った。
「相変わらずつれないなー。まあ、いいや、行こうぜ。遅刻しちまう」
全然意に介した風もなく天野くんは歩き出す。私の手を握ったまま。
「~~んもう、強引だよ」
困った振りをして私も歩き出す。つないだ手は離さず、私もそっと握り返した。
#手を繋いで
12/9/2024, 3:40:02 PM