Werewolf

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【たまには】月末夜の渚さんデザート

 よし、と渚は小さくガッツポーズを取る。今月の請求書は全部片付いた。不足の書類は昼過ぎに揃い、上長の印も早い時間につけてもらえている。駆け込みも許容範囲だ。定時から一時間で月末の書類が片付いたのは十分に及第伝である。本当ならそれは随分ダメなような気もするのだが、渚があれこれ決め事をするまで深夜までかかってたところから考えれば進歩である。
(呑気なだけなんだろうな、外堀埋めるとやってくれるし)
 そう思うことにしている。いつもギリギリで追徴課税にならないように必死にならなければいけない日々に比べたら随分楽になったものだ。先輩と一緒にルールの立て付けをやった甲斐もあると言える。
 今から帰れば駅前のスーパーがまだ開いている。華金でもある。今日くらいは贅沢をしよう、とそう心に決めた。

 渚は自宅最寄駅のスーパーに立ち寄ると、一パック三百円超えの苺と、比較的安価なカップアイスのミルクリッチ味を買って、製菓コーナーでチョコスプレーも買い込む。ホイップクリームは調子に乗って購入した絞り出しタイプのものがまだ残っていたはずだ。なかったとしても問題ない。最後に割引のシールがついたピザとサラダを買って会計に行く。
 帰る足取りも軽い。前回のボーナスで買った普段履きのパンプスも、その大理石に似た柄を踊らせているかのようだ。先ほどスマートフォンの電源は切ってしまった。たとえ友人であっても今晩のお楽しみを終えるまでは放っておいてほしい。
 単身者向けのアパートの玄関を開けて、靴を脱いで揃えて、ドアにはチェーンをして。鍵を靴箱の上のトレイに置いたら、買い物袋をキッチンに運び、デザートになるものを冷蔵庫へ。サラダはテーブルにおいて、ピザも常温でも大丈夫そうなのでその横に置いた。
 スーツをハンガーにかけて軽く髪の毛をくくり、メイクを落として顔を洗った。今日の風呂は後回し、と決めてキッチンに戻る。レンジでピザを温める間にサラダを食べた。ジェノベーゼと照り焼きチキンをそれぞれ楽しんで、お待ちかねの時間が来る。
 苺は洗ってヘタを取る。半分に切る手間は惜しんだ。アイスクリームはパッケージを軽く水にさらして外れやすくし、ワンパックを深めの皿に落とす。周りにホイップクリームを敷き詰めて、苺を乗せていく。その上にもホイップを少し乗せて、上からスプレーチョコをたっぷりかけた。
 平皿の女児パフェ、と渚はひっそりそう呼んでいる。月末かその前後に、これをやるのが密かな楽しみなのだ。普段は節約と節制を心がけて、過剰に甘いものも食べないし、本当は帰りが早ければジムに行くようにもしている。それでも、自分が「ああやりきったぞ」と思えた時にはちょっと甘えたい時もあるのだ。
 スプーンで救った一口分を、ぱくん、と唇の奥に受け止める。
「ん〜!」
 まだ未熟で酸っぱい苺と、甘くなめらかなアイスクリーム、優しいホイップと歯応えのあるチョコレートの楽しいハーモニーが、疲れを癒すようだった。

3/6/2026, 2:00:37 AM