冷端葵

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こんな夢を見た

 僕が見たのは例えばこんな『夢』だった。

 みんなのスーパーヒーローになった。わるものをやっつけた。
 かけっこで1番になった。日本で1位の天才だった。
 好きな人と一緒にいた。大切な人が隣にいた。

 いてほしかった。

 世界を変える存在になりたかった。誰かにとっての一番になりたかった。
 空は飛べなかった。魔法は使えなかった。僕は特別じゃなかった。運命もなかった。気付けば一人だった。

 『夢』を見なくなった。

 ただ眠って起きる、その間の時間は真っ黒で、起きている時間だって頭の中は真っ黒で。
 いつからこうなのか、思い出そうとしても真っ黒で、見えるのは結局遠い昔の夢ばかりだ。

 今日はもう眠ろう。真っ黒な時間に落ちよう。

 眠ることを「夢を結ぶ」とも言うそうで。結ぼうにも、頭の中に黒色しかないのなら、どうしたって見える夢は黒色だけれど。
 それでも結ばれる『夢』が少しでも残ってくれているのなら、その結び目は黒の中で彩りとなるだろうか。

 黒色の中に沈みながら、僕は『夢』の残り香がゆったりと結ばれていくのを眺めている。
 きっと、そんな夢を見る。

 おやすみなさい。

1/23/2024, 1:33:23 PM