クリスマス・イブに僕は死にました。
たしかに僕はそのときの時刻を正確にかつ克明におぼえていて、黄ばんだ壁にかけられた時計が示していた午後八時四十二分、薄汚い真っ暗な部屋の中央で台を蹴って宙ぶらりんになりました。僕は生存本能から脳に酸素が足りなくなり気絶に陥るまでの時間をそれまでその瞬間を死を待ち望んでいたのにもかかわらずもがき苦しみ心の底から台を蹴り飛ばした選択を後悔しながら砂漠で巨大な壁に対するように絶対的な死におびえて過ごしました。僕という意識が消失して縄で首を括られたままの僕の縊死体のまっしろな首にはまっかな傷痕が幾本も刻み込まれていまして僕がこうしてまだこの場でこれを書き続けていられるのはそのことに深い未練があるからなのです、これをどうにかしないことには僕は死ぬに死ねないのです。つまるところ僕は僕という生の死に対して何処までも潔い態度で対峙したいと考えていたのが、僕をそういった決断にまで追い詰めた臆病さと卑劣さに屈して男らしさというものを最後まで持たずに死んでしまったのが、これを読んでいる人は自ら死を選択しておきながら何故と思うかもしれませんが、死ぬに死にきれないのです。
なのでみなさんをサンタだと思ってお願いします。近所の方が放置された僕の縊死体から発せられる腐敗臭に気がつき公に僕の恥が露見してしまう前に僕を見つけて首元の傷をかくしてください。ファンデーションでも絆創膏でもなんでもいいです。あるいはそれは首を吊る前になんらかの、つまりどこかで引っ掛けたり野生動物に襲われたりしてついたものなのだと人々に錯覚させられるものでもかまいませんが、とにかく僕の恥を闇に沈めてください。
皇居から東に一キロ行ったあるアパートで僕は死んでいます。はやく僕を探しに来てください。
ぼくをみつけてください。さんたさん。
12/24/2024, 11:19:03 AM