あじさい
帰路を急いでいた。
空は薄暗く、視界は霞んでいる。
傘こそ差しているが、
足元はすでにべちゃべちゃだ。
普段は気にならないのに、
こういう日は駅から遠い自分の家が憎らしい。
視界の隅に何かを捉えて、思わず足を止めた。
濡れるのも構わず手を伸ばす。
こんなところでも咲くんだ。
田舎にはたくさん咲いていた。
ただ、田舎に比べて少し赤みが強い。
土地の質で花の色が変わるんだっけ。
こんなところで、土地の違いを感じるなんて。
行き交う人の数、建っているビル群。
違いなんて、いくらでもあるのに。
ふと、手元に光が刺す。
いつの間にか、雨が止んでいた。
花びらに溜まった水滴が光を反射し、
あじさいの花がキラキラときらめいている。
一度しゃがんで花びらをなでてから立ち上がる。
この街での暮らしは始まったばかり。
未来はきっと、希望に満ちている。
6/13/2023, 11:24:16 AM