「陛下。『美しい』はね、人それぞれ、時節によっても変わるものなんですよ」
馬車の中、向かいに座る聖女が、俺に向かって得意げに言った。
「だから本当の意味では、優勝なんて決められない──ワタクシが推していた絵画が今回の展覧会では優勝にならなかった、そんなのは想定内なんです」
外世界から召喚されたこの聖女はかつて、俺に刃を向けられながら「侵略以外の趣味を持て」と言い、それによって俺の剣を引かせた。
そしてそのよく回る口で、外世界にあったという様々な文化のことを語り続け、おかげで俺と、俺によって征服された世界は、それらを知ったのだった。
殺し合いではない剣技や格闘技、チェス、団体同士で戦う球技、旅行──聖女は次々に「人々の生きがいとなるような趣味」を我々に披露していった。
そして今回、聖女が我々に教示したのが、絵画などの美術の鑑賞であり。
俺の名で絵画の大会──展覧会がひらかれると、聖女は俺を連れてすべての絵画を見て回り、いまはそれを終え、ようやく帰途に着いたところだ。
「……優勝がない? それでは、このような会を設けた意味など、ないのではないか?」
「絵を描く者にとって目標にも、励みにもなるから意味はあります。パトロンも見つけやすくなるだろうし、それに、」
聖女がニヤリとした笑みを浮かべ、続けた。
「賞金と名誉のために、お抱えの絵師を入賞させようとして審査員に賄賂を渡したりする、おバカ領主ホイホイにもなったでしょう?」
「ああ……言わんとすることはわかるが、ホイホイとはなんだ?」
「あ、えーっとね。粘着力で害虫を捕まえる装置のこと。にしても、おバカ領主は例外なく脱税もしてるんだもんね、もう笑っちゃう!」
外世界のことばを口にしたからなのか、聖女の口調が、初めて出会ったときのような、くだけたものになった。まぁ普段の敬語であっても、俺に敬意を払っているようには聞こえない言葉使いなのだが──。
「あーでも。陛下は『美しい』……ワタクシが見ても、他の誰が見ても、優勝間違いなしです」
唐突に、聖女が言った。口調も一応、戻ったようだ。
「なのに、どうしてモテないのでしょう。闇魔法使いの侵略者、ってイメージが強すぎるのかしら?」
「……『美しい』などと言われたのは、初めてだが。しかし"モテない"とはなんだ?」
「それはですね、陛下を慕う女性が少ない、という意味で……っ、やばっ! これって、不敬罪になっちゃうよね?」
またくだけた口調になった聖女は、あたふたと落ち着きがなくなり──俺はそんな聖女を持ち上げて横に座らせ、よく回る口を牽制するべく、頬をつまんでつねってやることにした。
「不敬罪など、いまさらだろう。それで──おまえはどうなのだ」
「ひゃい?」
なんとも間の抜けた声が返ってきた。
「要するに、『美しい』は本来"モテない"ではない。ならばおまえは『美しい』俺を慕うと、そういうことであろう?」
「ふへっ! ひょ、ひょれは、またべちゅのひゃなしで、ひょの、」
ふん、これは──絵画など鑑賞するよりも、余程楽しいのだが?
1/16/2026, 10:55:35 PM