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一輪の秋桜

ひとり秋桜が咲いているのを見た。
すっかり夏は過ぎ去ってしまったなあ。
ねえ先輩、私のことまだ好きでいますか。
私はもう、あのときの、
祭りの香りも思い出せなくなってしまったの。

ねえ先輩、いつか優しく笑いかけてくれたね。
味気ない優等生な私のこと、見てくれた。
先生みたいに放っておかないでくれた。
ああ、めちゃくちゃに愛してしまうよ。

ねえ先輩、いつも私を外に連れ出してくれた。
年上の苦さと甘さ、焦りを隠して、
いつも大人のように笑みを浮かべていた。
ああ、手首掴んで、キスだけしてよ。

ねえ先輩、秋桜の読み方を教えてくれたっけ。
珍しく穏やかな顔をしていた。
そっと後ろから抱きしめてくれた。
でもそんなの、どうせ今だけでしょ。

ねえ先輩、袖を引っ張らせて。
上目遣いでキスをおねだり。
あざとい背伸びも首の角度も。
貴方のためだけに覚えたんだよ。

ねえ先輩、狂っちまいそうだよ。
ベッドに思いっきり押し倒して。
私のこと愛してしまって後悔してる?
ねえ先輩、貴方もまだ子供のくせにね。

貴方の魔性の後輩になれるように。
仕草も勉強もなんだって覚えた。
貴方の一生の後輩になれるように。
唇だってはじめてだって奪われてやった。

ねえ先輩、私は貴方とふたりでいたいだけ。
ずっとさみしくてくるしいんですよ。
ああ、秋桜ってどう読むんでしたっけ。
もう貴方の顔も思い出せないよ。

ねえねえ、せんぱい。
もうひとりになってしまったよ。
そんな馬鹿な私を笑って。
そのあと優しいキスをしてほしいな。

10/10/2025, 2:19:42 PM