時間よ止まれ。ああ、今のこの時が終わることなくずっと続いたならば。
私は異国の街中を自転車タクシー、いわば自転車版人力車に乗って走っている。隣には将来を誓い合った女性。
私たちは先ほどこの国の空港に着いたところだ。彼女の家族に結婚に向けての挨拶をするため、やって来たのだ。
タクシーで家に向かうのかと思いきや、彼女が呼び止めたのはこの自転車タクシー。
「コノホウガ安イノヨ」
初めてこういうものに乗る私は興味津々だ。いや、この国を訪れること自体初めてだから、目にする風景全てがもの珍しい。
天気は快晴、吹く風は心地良い。胸の片隅に居座っている緊張を、ひととき忘れられる。
「◯□※△√#%〜!」
私にはわからないこの国の言葉で、彼女が車夫に話しかける。私たちのことを伝えたのだろうか。
「✳✓@§∬♪!」
車夫が何か答える。二人は揃って笑った。つられて私も笑う。
ふいにはらはらと何かが降って来た。花、だろうか。街路樹に細かい花がたくさん咲いており、それが散って降り注いでいる。私たちの前途を祝福しているかのようだ、と勝手に思う。
時間よ止まれ、あらためて願う。それが叶わぬならせめて、今日のことを決して忘れずにいよう。
9/19/2023, 1:37:02 PM