もんぷ

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0からの

「や、久しぶり……はは、なんか変な感じ。」
何やねん、それ。あの頃と変わらないその少し厚めの唇は気まずそうに言葉を紡いだ。ムッとした感情を全面に顔に出すと彼は困ったように眉をハの字にして笑った。そう、この笑顔が好きやったなぁと思った。自分の我儘に付き合ってくれる優しい笑顔。いや、別にこっちは今も好きなんやけど。だからこそ、他人行儀というか何とも気まずい空気に腹を立てているのを分かってほしいのだ。まるであの頃の関係値が無かったかのように、0に戻ってしまったかのように振る舞われたらそりゃ腹も立つだろう。

 年月としてはおおよそ二年にも満たないぐらいの日数で、人が大きく変化するにしてはまだ足りないぐらいの短い時間。それでも会えない時間を嘆いてしまうぐらいに自分にとっては長い期間。憂さ晴らしに始めたジム通いで手に入れた過去最低体重も、わざわざレッスンにまで行って変えたメイクもやっと見せてあげることができた。少し歳は重ねたけど、あの時の自分よりもだいぶ見かけは良くなったやろう。ほら、早く褒めてぇや。

「会うとは思わなかったなぁ。」
何やねん、そっちは会いたくなかったん?
「何年振りだっけ、えーと三年とか?」
二年や、覚えとけ。そんな興味無いんか。
「あれから元気だった?」
おかげさまでしばらく体調崩したわ。そっちはだいぶ健康そうやなあ?

「へへ、良かった。その癖変わってなくて。」
はぁ?
「なんか文句あると眉間に皺寄せてこっち睨んでくる癖。」
そんなんしてへんし。
「ま、無意識なのかもしれないけど。最初は怖くてさ。近づけねーなんて思っててさ。」
何でそんなん言われなあかんのん?

「でも、付き合ってから…いや、それよりも前か。その癖もかわいくみえちゃってさ。好きだったんだよね。」
…ふーん。
「変わってたら寂しいなって、勝手に思っちゃった。」
別にええけど。
「だって、前も綺麗だったけどさ、もっと綺麗になってさ。」
おう、よう分かっとるやん。


「もう俺のことなんか覚えてないと思ってた。」
何を言うとるん?


 こいつはそういうやつだった。超がつくほどの自己肯定感の低さと、不器用さ。あんなにも好きだと、こちらが好きなお前を否定するなと伝え続けてきたのに。少しずつ自信を持たせていたあの期間と少しだけ伸びたように思えていた自尊心はどこへいった。それすらも0に戻ってんのか。

「ありがとうね。覚えててくれて。」
だから、そんなんは当たり前やろ。
「嬉しかったなあ。久々に会えて。」
なぁ、何なん。何、また、離れようとしてんの?
「じゃあ、元気でね…「なあ!!!!!!」

 思いの外自分の声が大きく響いて驚いた。でも、この機を逃してしまってはこちらも生きていけないのだ。必死にだってならせてくれ。0からでいい。あの頃のことを忘れていたっていい。もう一度、伝えさせて欲しい。私がいつだって、今だって大好きな、目の前の不器用な人のことを。優しい人のことを。かっこいい人のことを。忘れさせてくれない人のことを。何よりも愛おしい人を。きっと、適当に入ったコーヒーショップでは語り足りんから、まだ時間作ってもらうからな。これから自分の一生をかけて、伝えさせて欲しい。これを最後の我儘にするから、いつもみたいに困った笑顔で頷いてくれへん?そしたら、また0からよろしく。

2/21/2026, 11:35:34 AM