白糸馨月

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お題『不条理』

私は今、望まぬおしくらまんじゅうを強いられている。
周囲を人に囲まれるだけじゃなく、電車内に無理矢理人を詰め込んでる状態だから否応なしに人と体がくっつく状態になっている。

私は今、見知らぬ男性のスーツの背中に顔をくっつけている状態になってしまっている。
別にその人がいい匂いがするからでは決してない。
どっちかというと加齢臭がするから、こんな状況でない限りごめんこうむりたいのだ。
向こうが背中でこちらを圧してくるが、周囲の人壁でがっちりホールド状態になっているから移動したくても無理。
次の駅に着くまでひたすらこの状態でやり過ごすしかなかった。

しばらくして停車駅に着いて、人が降りていく。ターミナル駅だから他の駅よりも人が多い。
やっとこの状況から開放されて胸を撫で下ろしたのもつかの間だった。

「気持ち悪いんだよ」

不快感を伴った声が上から聞こえてきた。
齢四、五十代くらいのおっさんがこちらをゴミを見るような目で見下ろしてくる。
私の思考は急に頭を殴られたように一瞬停止した。

はぁー?
こっちだって好きでテメェの背中に顔をくっつけたわけじゃねぇし。むしろ気持ち悪いのはこっちなんだが?
っつか、なんで私が言われなきゃならないんだよ。不条理すぎんだろ。

おっさんから逃げるためにすこし空いた社内を移動しながら、こんなことを言いたくなるのをぐっとこらえた。

3/18/2024, 11:27:53 PM