お題 耳を澄ますと
耳をすまして聞こえてくるのは、青春の詰まった音。
吹奏楽部の少しズレた音。
運動部の大きな声。
時々廊下を歩く生徒の楽しげな声。
怒鳴る顧問の声はあまり好きじゃないな。
こんな音の中に入れてないのが私。
私だけの屋上で空を見ながら耳を澄ます。
これがいつもの私。
世界に入れていない私。
屋上に登れることを知ってる人は極わずか。
知ったとしてもバレた時のことを考えると、のぼてくる人は
ほとんどいない。
そんな中、私ともう1人、のぼってくるやつがいる。
耳に届く階段を上ってくる音。
あぁ。また来たのか。
「また来たの?来ないでって言ってるでしょ。」
『そういう時の君の顔はいつも少し苦しそうだ。』
「だからそんなことないってば。勝手な勘違い。」
私は人と関わるのが苦手だ。
多分喋れなくはない。でもものすごく疲れる。
なんで関わらないといけないのかいつも疑問に思う。
いつもこんなことを話したあと、
彼は私の少し離れたところに寝転ぶ。
今日もそうなると思ってた。
『ねぇ。世界に入ってみない?』
は?
こいつは何を言い出すんだ。
私には無理だし嫌だ。
『少しくらい見てみたくない?君がいつも聞いてる世界を』
なんで私が世界を聞いてるって思ったんだろうか。
『そんな顔してるからだよ。』
全部お見通しってわけか。
確かにみんなが生きる世界について気になることはある。
なんでわざわざ人と関わるのか。
なんで汗を流してベトベトになりながら部活をするのか。
なんであんなに楽しそうに輝いて生きているのか。
そのことを少しでも知れるなら行ってみる価値はあるのかもしれない。
具体的なことは知らない
でもきっと、こいつが全部みせてくれるのだろう。
私は彼を信じてみる。
「いいよ。少しだけ入ってみる。みんなの生きてる世界に」
『よしのった。いくぞ。』
彼は立ち上がって、私の手をとった。
その横顔はすごく輝いて見えた。
これが私の人生を大きく変えるきっかけとなったのは
また別のお話。
5/4/2024, 11:08:55 AM