「ばいばーい」
「またね、気をつけてね」
私は一人自転車を押す。あの娘は友達と駅に吸い込まれていく。
彼女が好きだ。
別れ際友達は皆、またね、や、ばいばい、と言う。
けど彼女はそれに、気をつけてね、と付ける。
そんな本当に細やかなことさえ、好きだと思えてしまうのだから恋は盲目だ。
いつか彼女が好きすぎて失明してしまいそうだ。
彼女が好きだ。
複数人で帰っても、たいてい二人ずつに別れて話しながら帰る。これがいつものルーティーン。
私は彼女と話すのが一番好きだった。
聞き上手で返すのも上手い彼女といると、話したいこと伝えたいこと、心の防波堤がいつもより脆くなって、次々と溢れだしてしまう。
くしゃりと笑う顔、声、言葉遣い、仕草、全部全部、丁寧で優しくて好きだった。
美人は声まで綺麗なのか、なんて。たいして可愛くもなくて鼻にかかる声の私は、ただ彼女を羨んで、好いていくばかりだ。
彼女になりたい、とは思わないけど。
そんな彼女と、隣でたくさん話していたい。
「たくさん」は叶わないけど、別れ際話せる時間さえあれば。一抹の寂しさとそれ以上の多幸感を自転車のカゴにつんで、私とあの娘はまたね、を交わす。
9/28/2024, 11:22:18 AM