冬になったら
冬になったら炬燵を出そうと言っていた通り、狭い居間の真ん中にそれは鎮座していた。
「おお……」
私が思わず感嘆の声を上げると、既に炬燵の住民となっている部屋の主は「ふふん」と鼻を鳴らして得意顔をした。炬燵のある家に住んだことがない私は、炬燵でみかんを食べるという冬の風物詩らしい行為に多大な憧れがあった。因みに実家のダイニングはテーブルと床暖房だった。
そろそろと足を炬燵布団に忍ばせると、寒風の中を歩いて冷えた身体が足先からじんわりと温められていく。わたしはほう、と息をついた。そして欠かせないものを要求した。
「みかんは?」
「あるぞ」
「どこに?」
「冷蔵庫の隣の段ボール」
「取ってきて」
「お前が行け」
「炬燵から出たくない」
「気が合うな、俺もだ」
攻防は暫く続いたが、結果として私は炬燵に入ったままみかんを入手することに成功した。口でなんと言ってもこの男は私に甘い。みかんの皮を剥いて、白い筋も取って、とお願いする度にぶつくさ言いながら結局全部やってくれる。
そうしてぬくぬくしていると、半身浴をしたときのように身体の芯まで溶かされていく感覚がした。今年の冬は炬燵に囚われて過ごそう。私は夢見心地で思った。
11/17/2023, 7:17:07 PM