ヒロ

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クラスではあまり皆と話さない。
部活は入っていなくて、授業が終わるとすぐさま帰っていく。
がさつに見えるけど、実は料理がとても上手い。
持ってくるお弁当は彼が自分で作っている。
幼い頃に母親を亡くして、今はお父さんと二人暮らし。
だから料理だけじゃなくて、家事も一通り出来るすごい男の子で。
勢いで誘った料理部の活動にも、「皆と騒いで作るのも楽しいから」と欠かさずに参加してくれる。
私がばっさり失恋したときも、深くは聞かずに側にいてくれて。
悔しくて悲しい気持ちを一緒に消化してくれた。
心強い部活仲間で、友人で。
彼をさらに知る度に、好きな気持ちも膨らんだ。
この好きは、恋? それとも熱い友情の延長なの?

どちらなのかは自信がないけれど、貴方を映画に誘っては駄目かなあ。
部活の連絡事項では散々メッセージのやり取りをしてきたけれど、いざ純粋に遊びのお誘いとなると、何だかとても緊張してしまう。
『観たい映画があるんだけど、受験勉強の息抜きに一緒に行きませんか?』
何回も消して迷った文面は、ちょっと他人行儀になってしまった。
それでも他に良い文面も思い付かなくて、えいっ! と勢いに任せて送信した。

数分待って。
貴方から届いたのは「オッケー!」の可愛いスタンプ。
ぶっきらぼうな彼の印象からは意外だったけれど、彼は返信にスタンプを多用する。
前に理由を聞いたら、「簡単に済むから」と、これまた彼らしい理由に笑ってしまったっけ。
まだ映画のタイトルも伝えていないのに即答してくれたのが嬉しくて、うじうじ躊躇っていた心が晴れ渡る。
スマホを握ったまま、小さくガッツポーズを決めていれば、追って彼から今度はメッセージも送られてきた。
浮かれてすぐさま画面を開いた。
けれども、その内容を確認して固まってしまう。
『他の三年にも声かけようか。王子とかも誘う?』
彼の優しさに、がっくり項垂れる。

違う。違うよ!
確かに。学年一番の優等生、あの王子のことは好きだったけれど、バレンタインで振られてちゃんと諦めがついたんだから。それも、貴方のお陰で。
そりゃあ、今でも格好いいなあって。アイドルを応援する憧れの気持ちみたいなのは残っていて。
王子が料理部に参加したいって聞いたときは思わずはしゃいでしまったけれど。
そんな橋渡しみたいなこと、してくれなくても大丈夫なのに。
王子と彼が親しくなって以来、私が好きだった人を察していた彼は、時々こうして仲を取り持つような真似をしてくれる。
けれどもその度に、彼の優しさと勘違いに心がぎゅっと締め付けられて、実はちょっと辛い。

こんなに悩んで。やっぱりこれは恋する気持ちなの?
ああでも。彼の言うように、皆で出掛けるのも楽しそうだ。
提案を断るのも何だか変だし。ああもうどうしよう!

名前の付かない気持ちと、ワクワクする気持ちを抱え込んで。
トーク画面を見つめたまま。再び頭を悩ませる私は、すっかり恋する乙女なのかもしれない、と。
彼には内緒で、こっそり赤面した。


(2024/09/15 title:055 君からのLINE)

9/16/2024, 10:48:49 AM