「ねえ、アイスあげる」
そんな声とともに小さい袋が投げられた。
黄色いシャーベット風の小さいアイスがコロンと1つ入ってる。
「⋯⋯⋯⋯急になんだい」
投げてきた彼女に目をやれば少し笑って言った。
「それ、食べらんない味なの」
「⋯⋯⋯⋯何味」
「まんごー、とか言ってた」
マンゴー味。
どこから持ってきたとか、食べられない味ならそもそも買わないなり貰わないなりすればいいんじゃないかと思いつつ、口に入れた。
「⋯⋯⋯⋯っ!? 酸っぱ⋯⋯!」
口の中に広がったのは想定していたマンゴーの甘みではなく、柑橘系の、もっと言えばレモンの強い酸味が口の中に広がり、つい声が出てしまった。
なるほど、これも彼女のイタズラだなと見れば、ギョッとした顔でこちらを見たあと、下げていたショルダーバッグから水筒を取り出した。
「これ、水! まだ口つけてないからさ⋯⋯大丈夫?」
あまりにも真っ当な、というか普通の言葉を言われてつい、驚いてしまった。
「あ、あぁ⋯⋯ありがとう」
飲んでみても普通の水で、なぜだか彼女はずっと心配そうな顔でこちらを見つめていて、まるで全く違う人みたいだ。
「助かった」
「良かった」
「そ、そういえばきみはアイス、何味だったんだい?」
「ボク? 食べてないよ?」
あまりにも意外な返答が返ってきて、彼女に水筒を渡そうとした手が止まる。
⋯⋯食べてない? 僕にはアイスをくれたのに?
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯なんで?」
「ひとつだけしか貰わなかったから。じゃあね、『演奏者くん』♪」
何故か少しだけ上機嫌そうな彼女が去っていく。僕は彼女の後ろ姿を見つめるしかなかった。
4/3/2024, 3:18:13 PM