いろ

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【束の間の休息】

 執務室の机の上へ山と積み重なった書類の束。記された文章の全てに目を通し、問題があれば筆を入れ担当部署へ送り返し、問題がなければ印を押し実行部署へと命を出す。
 この非効率な政治の回し方もいずれは是正しなければ、誰も宰相などやりたがらないと理解してはいるけれど、なかなかそこまで手が回らないのが実情だった。
 城の鐘が三時を告げる。多くの官僚たちはもう一踏ん張りの気合いを入れ直す刻分、僕からすれば遅い昼食の時間だ。
 いくつかの書類を持ち、執務室を離れる。向かう先は玉座の間。鐘の音も聞こえないレベルで集中し、自身の髪をグシャグシャと掻き回しながら書面と向き合う我らが王の眼前へと、新たに持ち込んだ書類をひらひらと振った。
「こちら、陛下のご判断が必要なものです」
「ああ、もうそんな時間か」
 仕事の進みが芳しくないのか、陛下は小さく息を吐く。今日はよほど悩む案件が多かったらしく、思考を巡らせながら頭を掻く癖のある陛下の髪はひどく乱れていた。
 検討していた提案書を大人しく放り出した陛下は、机の上の鈴を軽く鳴らす。恐らくは優秀な侍女たちの手で、すぐに二人分の昼食が運ばれてくるだろう。
 僕は陛下を休ませるために。陛下は僕が昼食を抜かないように。互いのためじゃないと深夜まで通して働いてしまう僕たちが決めた、午後三時の休憩のルール。漂ってきた紅茶の香りが、疲弊しきった脳に優しい。
 玉座の間の片隅に置かれた応接テーブルへと腰かける。束の間の休息に身をゆだね、僕は陛下の乱れた髪を指先でそっと梳いた。
 

10/8/2023, 11:17:49 PM