わたしの世界は、この狭い部屋の中にしかない。ほとんどの時間をベッドの上で生活していて、窓の外の景色もずっと同じ。
「マリコは体が弱いから」
外の空気は体に良くないんだって。お父さんはいつもそう言うの。お母さんも体が弱かったから、わたしには少しでも元気でいてほしいって。
でもわたし、外の世界のことなら何でも知ってるのよ。お父さんがいつも、わたしに本を読み聞かせてくれるから。本の中には、世界どころか宇宙があるの。図鑑を見れば、遠い異国の地に生える植物や、不思議な声で鳴く水鳥にだって出会えるもの。アンドロメダ星雲ってご存知? とっても美しい光の渦なのよ。
そんな時だったわ。夜中、わたしが寝付けなくてベッドの中でもぞもぞしていると、いきなり小さいかたまりが飛び込んできたの。
びっくりして起き上がると、それはかわいい猫ちゃんだったの。お父さんがわたしに内緒で飼い始めたんですって。それからわたしの宇宙はもっともっと広がったわ。
ちいさな肉球が、白い紙に黒い星雲を描いたから。
1/19/2025, 12:24:56 AM