あの頃の不安だった私へ
エミリーが荷物を片付けていると、古い日記が出てきた。それは彼女が修道院にいた頃のものだ。
「……」
エミリーは丸いメガネの奥の目を細くしてページをめくる。
そこに書かれているのはかつての彼女の不安や苦しみ、そして絶望だった。
元々エミリーも彼女の両親も敬虔な神徒だったわけではない。しかしエミリーには教会が崇める光の精霊の声を聞くことができた。だから売られた。
幼いエミリーはただひたすらに似たような境遇の子どもたちと共に光の精霊の声を聞き、それをシスターに伝える。
そんな毎日を続けたある日、彼女をそこから連れだす勇者が現れた。エミリーは彼の手を取り修道院を飛び出した。
冒険を経て、今彼女は彼と住まう家の片付けをしている。
「もう、大丈夫ですよ」
エミリーはあの頃の自分に呟く。
「いろいろありましたけど、まあ、どうとでもなるものです」
あの頃は辛かったけど。冒険だって一筋縄では全然いかなくて、大変で、でも楽しかった。エミリーはぱたんと日記を閉じてそっと撫でる。その手は当時の彼女が欲したように優しい。
「エミリー、そっち片付いたか?」
「もうちょっとです!」
かけられた声にエミリーは立ち上がる。不安はもうない。
5/24/2023, 11:46:12 AM