NoName

Open App

星が溢れる



たまたま、ふと通り過ぎる筈だった道すがらで
人だかりが出来ていた。
普段なら気にも留めなかったのに足を止めたのは純粋に時間があったからに過ぎない。
楽しそうに露天を覗く人々の声が気になったというのもある。

人の背中が垣根の様になっている。
女性ばかりなのかと思えばそれなりに男性もいることに不思議な安堵があったのはスーツ姿の大男が相応しくないという自責もあるのかもしれない。

目の前の後ろ頭を掻き分ける様にのぞきこむ。
そこには色とりどりの飴が並んでいた。
そうか、ホワイトデー。
日本の伝統的な手法で作ったという飴細工は
端から端まで完成度の高い逸品だった。
手毬のようなもの、まるで一輪挿しの花の様なもの、薔薇にこれは鶴だろうか。
一級品の芸術が所狭しと小さな展覧会を開いている様だ。
目の前の男性が小さな子供に選ばせて、買い与える。それを嬉しそうに見つめる子供を周りの大人が暖かく見守っている。

なんだか酷く懐かしい。
幼い頃、屋台で父にせがんで買ってもらった事を思い出す。父の大きな手を引いて祭囃子が響く人混みを掻き分けてはあれが欲しいこれが欲しいと駄々を捏ねては困らせた。
今はもう戻れないあの温かな手の温もりを探すことはできない代わりに色とりどりの飴だまを一つ手に取った。

『おかえりなさい、お父さん』
玄関前にはニコニコと待つ娘の姿があった。

『珍しいな、お出迎えなんて』
明日は雨が降るかもな、なんて笑いかけると両手を差し出す。全く我が娘ながら。
生まれたときにはあんなにも小さかった手が随分と大きくなった。成長を嬉しく思うと同時に現金さに苦笑する。

『わかってるよ。ホワイトデーだろう?』
『さすが話が早い!』
両手に紙袋を差し出すとヤッタァ!と大きく飛び跳ねた。
『ありがとう、お父さん覚えてたんだね!これが欲しかったんだ。』
数日前からわかりやすく欲しい欲しいとねだられていたものはちゃんと買っている。
奥からは妻のまた甘やかしているんだからという呆れた声がする。
娘と入れ違いにやってきた妻に鞄と外套と、それからプレゼントとは別に一つ、紙袋を渡す。

『これはなに?』
覗きこむ妻が紙袋から出したのは
色鮮やかな金平糖。

『星のかけらが落ちていたから拾ってきたんだよ、君に』
喜ぶかと思ったんだと笑いかければ
あまりにもキザ過ぎると笑い転げる姿があった。

3/15/2026, 2:32:38 PM