椿灯夏

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お題《涙》


純粋な煌めきは深淵をも癒す

“涙”には不変の価値がある


深く腐った町の最果てまでに噂が届くほどに


わたしは抜け出したかった

耐え難い餓えと同じ境遇の中でも差別される

心の貧しさからも


(絶対に這い上がってみせる。絶対に――)


炎がゆらめくような美しい長髪をナイフで切る

風にさらわれ舞い上がるさまは真紅の花弁のようにも見えた


夜明けの涙は誓いだ


少女はまだ知らない


この涙がやがて連れてくる壮大な運命の物語を




「この娘もちがう。まがいものだ」



少年の氷の硝子のように冷たい瞳に連れてこられた娘たちはおびえた 


少年もまた“涙”を巡る美しくも愚かな悪夢に踊らされていた



「聖女の涙なんてしょせんお伽話にすぎません。蒼明の王よ、賢い王なら、理解してますよね? 僕の言いたいことを――――」



王として生まれてきた少年は夜のように昏く嘲笑うそれを


睨み続ける



「涙を巡る物語は繰り返される」



そう告げた者は――きっと今もこの螺旋を高みの見物をしているのだろう


3/29/2025, 11:19:38 AM