寂しさには慣れていた。
幼い頃に両親を亡くして、私一人で妹を養ってきた。中卒でバイトをかけ持ちして、身を粉にしてお金を稼いだ。妹には好きに生きてほしい一心だった。妹のために私の人生を棒に振ったことに後悔はなかった。
妹をついに大学に送り出して、家に独り。妹もバイトを始めたとはいえ、異様に家に帰ることが少なくなった。
私には、SNSに妹にも伝えていない裏アカがある。と言っても、親しい友人とだけ繋がって日常的なことを投稿しているだけである。ある日その裏アカに、知らないアカウントからのフォローがあった。私を誰かと間違ってフォローしたのだろう。そのアカウントも、誰かの裏アカのようだった。投稿を遡っていくうちに、明らかに見覚えのある物が写り込む写真を多く見かけた。私は、このアカウントが私の妹のものであると確信を得ていた。そして、酷く後悔をした。このアカウントを見なければ良かった。見たくなかった。そこには、私に対する罵詈雑言が大量に綴られていた。
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寂しい人生を生きてきた。
私が物心つく前にこの世を去った両親。まだ子どもだというのに、自分の人生を投げ打って私を養ってくれた姉。傍から見れば、姉は妹思いのできた人間に見えるだろう。
誰もいない家に帰って、誰もいない部屋で宿題をして、食事をして、お風呂に入って、床に就く。姉に会えるのは翌朝。私より早く起きて朝ごはんを用意してくれている。
「お姉ちゃん、ご飯は」と言うと、
「もう食べた!行ってきます!」と、振り向きもせずに家を出る。私はモソモソと1人でご飯を食べる。そんな毎日に嫌気がさし、私は初めて姉に物をねだった。スマートフォンだった。もうみんな持っていると騒げば、優しい姉はすぐに購入してくれた。初めてスマートフォンを通して、SNSを開いたときはワクワクした。知らない人と繋がって、この寂しさを埋めることが楽しみだった。SNSは素晴らしかった。ハッシュタグを使えば同じ趣味や考えの人と繋がることができる。私は私と似た境遇の人を片っ端からフォローした。
姉に対する罪悪感はとうに無くなっていた。姉がいい人ぶっているように見えてならなかった。これ以上嫌いになる前に、姉から離れた。
大学は楽しかった。やっとバイトも許されたし、同じ趣味の人がたくさんいる。金銭的余裕もできて、私は夜な夜な友人と遊びに出掛けることで寂しさを紛らわした。
ある時、SNSで知らないアカウントをフォローしているのに気づいた。間違えてしまったようだ。同じ大学の人かと思い、投稿を遡る。見覚えのある風景が写っていた。私は慌ててフォローを外し、ブロックした。それとほぼ同時に、部屋の扉がノックされた。どうぞ。と言うと姉が入ってきた。表情を見てすぐに分かった。私は全身の血の気が引いていくことがわかった。姉は見たこともないほど悲しい顔をしていた。しかし、
「今日の夕飯、何がいい?」いつもと変わらない調子で聞いてきた。
「え、っと、うどん、食べたいかな。」
「そうね、冷凍のがあった気がするわ。」
分かったと言って部屋を出ていった。
私は、全身から血が沸騰するような感覚を覚えた。悲しみと怒りが混在した、不快感を全身から感じた。ベッドのシーツを左手で握り締める。行き場のない感情を、やはりSNSにぶつけた。
こんなことがあっても、姉はいい子をやめなかった。
1219 寂しさ
12/19/2024, 11:31:00 PM