tomoLica

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父はもう喋る事もできず、目は開いてどこかを見ているのか、見えていないのか、視点は定まらず、口は開いたまま浅い波のような息をしている。

朝に診察に来た医師は
「昼頃が山場でしょう。写真やいつも着ている服など用意しておいた方がいいです。」

私はびっくりした。
一昨日まで座って喋ってましたよ、と。
座って喋っていたのに、あれよあれよという間に容態が悪化して、往診を頼んだのだけど…
こんなに早く迎えが来るのかと…。


午後8時。
状況は変わらないまま。

私はベッドの横のサイドボードに寄りかかり畳の上にぺたっりと座っていた。
なるべく父の近くがいいから。

電話が鳴る。
昼の医師だ。夜になったので気にかけてくれたのだ。

「状況はあまり変わりません。はい、何かあったら電話します。」

そう言って、私が受話器を置くか置かないかの時、父の呼吸が変わった。

あれ?もしかしたら…

父の軽動脈あたりに手を添える。
最後まで父の温もりを…。

弱く脈打つ…
トク……トク……トク………トク…………ト…………




止まった。
父の71年間の生命が終わった。
身体からエネルギーが抜けて、無くなった。


周りにいた親戚の泣き声、慌てふためいてる人達、物体のみとなった父に、代わる代わる父に声をかけてゆく。




私はその様子を、ただ静かに静かに見ていた。




「静寂の中心」






10/8/2025, 12:06:08 PM