お題『なぜ泣くの?と聞かれたから』
(一次創作・最近書いてるやつ。夏菜子のターン)
《優斗、お元気ですか? 私は元気に修学旅行から帰ってきました。お土産を渡したいので明日会える?》
「送信、っと」
優斗にLINEを送ってスマホの画面を伏せ、塾の課題をやるべく机にかじり付いた。
お守りを渡したらどんな反応するだろ? 優斗のことだから迷惑がることはないだろうけど……まだ何もスポーツしていないところにスポーツのお守りを渡すのもおかしいかもしれない。やっぱりお菓子とかの方がよかったかな。
そんなことを考えていると、スマホが震えた。見れば、優斗からだった。
《おかえり夏菜子。ちょうどよかった。俺も話したいことがある。明日またこないだのカフェにでも行かないか?》
話したいこと……なんだろ?
《話したいこと? なになに? 教えてよ》
《明日話すってば》
《分かった。13時に双葉町のカフェでいいかな?》
《オッケー。それじゃまたな》
《うん。よければ中村くんも一緒に。
おやすみなさい》
優斗のいう『話したいこと』ってなんだろ? リレーの話に進展があったのだろうか。
いや、まさか。
「中村くんとの仲に何か進展が……?」
そこに行き着いて、思わず小さく呟いた。
『夏菜子……俺たち付き合うことになったんだ……』
『認めていただけますでしょうか、夏菜子様』
そう言って、ふたり揃って頭を下げてきたらどうしよう?
私、告白する前に振られたショックと己の歪んだ願望が叶ったことで泣いちゃうかもしれない!
そうとなれば早く勉強を済ませて執筆に取り掛からないと!!
……そう、私はBL熱を発散すべくふたりをモチーフとした小説をちまちま書いているのだ。さすがに名前は変えてあるけど……でも、文芸部の部員以外に見られたら確実に死ぬ。
まだキスシーンに辿り着けていないお話だけど。
続き、書くの楽しみだなぁ〜♪
翌日。
塾の夏期講習を午前中に済ませ、その足で例のカフェに向かう。
お守りを渡すのが楽しみすぎて、朝から何度も鞄の中を確認した。
カフェに到着すると、優斗と中村くんが陽炎揺らめくこの炎天下の中、外に突っ立っていた。
「何やってんの、ふたりとも!?」
思わず1オクターブ高い声が出てしまう。
「先に入ろうって言ったんだけど」
優斗が視線を私から自分の隣に移す。
「夏菜子様から直々にお土産を頂くのに、先に座って涼むわけにはいきません!」
直立したまま大声で言うものだから、つい笑ってしまった。
「お気持ちはありがたく頂戴いたします。それじゃ入ろ?」
そうして私を先頭に、3人で涼しい店内に入った。
ふたりはお昼ごはんを済ませてきたと言い、今日もクリームソーダを頼んでいた。私はお腹ぺこぺこなので遠慮なくランチを注文する。
オーダーしたものがやって来るまでの間に私は鞄から例のブツを取り出した。
「これ、お土産です。よかったら受け取ってください」
ふたりにそれぞれ手渡した。
「これ、お守り?」
呆気に取られたような優斗の声に「そう」と答えた。
「長野県の戸隠神社はスポーツ必勝の御神徳があるの。それで中村くんにも渡したいな、って」
「夏菜子様! ありがとうございます!!」
中村くんはテーブルに両手をついて深々と頭を下げた。
一方、ぽかんとした優斗が、
「お前、何で知ってんだ?」
と聞いてきた。
「戸隠神社のこと? それは旅行前にクラスメイトと旅行雑誌で調べて……」
「いや、そうじゃなくて」
ひと呼吸置いてから優斗は続ける。
「俺がリレーの選手になること、どこで知った?」
そう言われて、今度は私がぽかんとする番だった。
「え……?」
「え、って。お前、俺が陸上部に入ったの知ってて買ってきたんじゃねぇの?」
「え? なんでなんで? ちょっと待って」
私は混乱した。だってそうでしょ?
「優斗、いつ陸上部に入ったの?」
「昨日」
「私が修学旅行から帰ってきたの、一昨日。知ってるわけないじゃないの」
「だよな。だったらなんでスポーツのお守りを?」
優斗の疑問はもっともなことだ。
「優斗が走る姿をまた見たいなー、っていう願掛けのつもりで」
っていうか。あれ? 優斗、今何て言った?
「優斗、陸上部に入ったの?」
「……おう。今日はその報告をしようと思って」
優斗はぶっきらぼうにそう言うと鼻の頭を掻き、そして「へへ」と笑った。
私は胸が熱くなり、自分の目から温かい雫がこぼれ落ちるのを感じた。
「お、おい? 夏菜子、なんで泣いてんだよ?」
驚く優斗と、
「だ、大丈夫ですか!? どこか痛いとか?」
慌てる中村くん。
「ううん、大丈夫。ありがとう。優斗がまた走るって知って、びっくりしちゃった」
ポケットからハンカチを取り出して涙を拭いた。
「そうなんですよ。中山、走るって——夏菜子様のために」
中村くんの発言に、優斗が彼の頭を叩いた。
「おい、バカ、言うなよ!」
「だったら何か? 俺のために走ってくれるのか?」
優斗は頭を抱えている。
中村くん、そのセリフ、小説に使わせてもらうわ!!
8/19/2025, 1:30:08 PM