「良いお年をってよく言うけどさあ、なんか変じゃない?もうすぐ終わるのに今からどう良い年にするの?って感じ!」
頬を赤らめた彼女がケラケラ笑っている
いつもはお酒を飲まない彼女も、
大晦日の今日ばかりは既にビール4本目のプルタブに指をひっかけている
良いお年を、と言うのは大晦日の前日までだということ。更にはその意味を、手に持っていたスマホに従って説明すると、彼女は気の抜けた返事をした
「良い1年を迎える事ができますように〜かあ」
斜め上を仰いで少し考える素振りを見せたあと、
くるりと小さな頭がこちらを振り向く
「来年は良い年になるかなあ、どう思う?」
私は何も言わずに
りんごのように染った頬を両手で包むと
「ねえ〜手冷たい!!」
と柔らかな笑顔が勢いよく花開く
あまりの可愛らしさに堪らず紅色の唇に口付けると
彼女の体が空気を吸ってかすかに膨らむ
しかし、幸せの合間
息継ぎの間に
彼女が放った小さな言葉を
聞き逃すことは出来なかった
「新年なんか来なきゃいいのにな、
ずっとこの部屋で、このまま2人きりでいたい
…私たちに来るのは良い年なんかじゃないもの」
否定しようとして、
やめた
卓上のスマートフォンは、
先程から絶えず震え続けている
彼女の目線がそちらに向かないように
もう一度彼女の頬を優しく包む
私たちがどんなに後ろ指さされようとも
この愛が未だ世間で認められずとも
まだ見ぬ新年は希望と不安を孕みながら
否応なしに私たちを迎えに来る
この最愛の人の心が凍えることがないように
と祈ろうとして、苦笑した
先程まで冷えきっていた私の手は
彼女の熱でぬるくなっていた
どうか新たな明日も
互いに体温を分かち合える距離に居られますように
と訂正した祈りを胸に、
カウントダウンに耳をすませた
12/31/2022, 12:11:41 PM