Ichii

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最初から決まっていた

ショーケースに並べられたケーキたちをじっと見つめ、どれにするかをしかと吟味する。別に特別な日では無いが深夜にスイーツ特集なんて見てしまってからどうしても甘いものが食べたい衝動が止められなかった。
久しぶりに立ち寄ったケーキ屋は記憶の中にあるよりもきらきらと煌めいており、何でもない日を特別なものへと変える不思議な力を感じさせた。
チョコレートにしようか、季節のフルーツをあしらったケーキも魅力的だ、いっそチーズケーキとか、王道のショートケーキも悪くない。見れば見るほどどれも最高に美味しそうでひとつだけを選ぶのなんて到底無理なことに思えた。
うんうんと頭を抱え、ふと気づく。
何となく、ケーキはひとつだけしか買えないという思い込みをしていたが、自分にはそんな縛りがないことに思い至ったのだ。幼い頃の自分も今と同じようにケーキ屋に来てはどれにしようか何時までも悩み、両親に急かされたものだった。
あの時は親からケーキはひとつだけね、という言いつけに従うしか無かった。しかし今、自分は好きなだけケーキを買い、食べる権利がある。
そこからの自分の行動は早く、店を後にした自分の手にはそこそこの重みのあるケーキの箱が握られていた。
大人になるのも悪くない。
随分と軽くなった財布からは目を逸らし、ケーキの入った箱を抱え直し、家へと足を進めた。

8/8/2023, 6:09:20 AM