300字小説
君を待つ
人に捕まり、空を見上げるだけだった竜の僕の檻に君が忍び込んできたのが出会いだった。
「逃がしてやるよ。だから、一度で良いから俺を乗せて飛んでくれないか?」
それから僕は一度だけでなく、何度も君を乗せて空を飛んだ。常夏の南の島。東洋の桜の山。雪に覆われた北の大地。でも、いつの頃からか君は僕の背に乗れなくなり、そして、土に還ってしまった。そのときからだ。空を飛ぶのが楽しくなくなったのは。
今日、僕は久しぶりに翼を広げた。旅のお坊さんが言っていた。人はいつかまた生まれ変わる。そのとき、空から君を見つける為に。いつも空を見上げていた君に見つけて貰う為に。
もう一度、君と一緒に飛ぶ為に、僕は大空に飛び立った。
お題「大空」
12/21/2023, 11:25:44 AM