Largo giocoso

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『大空』


覚えてるかな?
“あの日”も今日みたいな雲ひとつない青空が広がっていたことを。

ほんと、驚いたよ。
ただ、君に謝りたかっただけなのに。
なのに、神様はそれを許してくれなかったみたいだ。

僕が忘れていた記念日はとっくに過ぎ、
君の誕生日にはまだまだ早い。

僕の誕生日だって、この前終わったばかりだったのに。


高校2年生の春。


突然呼び出したくせに、あの人は全然来なくて私はイライラしていた。

3時間くらい待ち、流石に心配になった。

けれども、あの時は記念日を忘れられて少し拗ねていた。
それで彼の家まで行くのが何となく嫌になり、私はそのまま近くの本屋により帰った。

本屋に彼の好きな漫画の新刊が出ていて、今度あった時教えよう。なんて、呑気なことを考えた。


そして、家に着き、大量の着信履歴があった。

かけ直すと、彼の母親からだった。

“いきなりごめんね。
実は、あの子が、あの子が………っ”

その人の声は震えていて、嫌でもわかった。

彼になにか起きたことは。


“………っ、飲酒運転していた人に、跳ねられたの。“


私はドクンと心臓がなり、ダラダラと汗が出てきた。


彼の母親から告げられた病室へと駆け込んだ。
そこには、足に大きなギブス、頭に包帯を巻き、ピッピッという電子音に点滴、人工呼吸器、そしてその横には目を真っ赤に晴らした彼の母親。
じっと俯き、唇を噛み締めている父親。
看護師さんに訴えかけている彼の兄。

私はその場に倒れ、気を失った。

そして、次に目が覚めると彼と同じ病院だった。

私は無理やり落ち着かせ、彼の母親から彼の容態を聞いた。

今夜が山場でしょう。ですが、仮に、命を取りとめても植物人間になる可能性が高い。

と。

私は絶句した。

もう、彼の声が聞けないかもしれない。
もう、二度と彼の笑顔を見れなかもしれない。

私は冷たい彼の手を握り、必死に神に祈った。


けれども、現実はいつも残酷を突きつけてくる。



彼は3時間後、静かに息を引き取った。



今日は、そんな彼の命日だ。

本当に、今日はものすごく天気がいい。
桜も満開で、子鳥のさえずりが聞こえてくる。

そして、少しだけ気温が上がってき、私は汗を拭った。

もし、彼がまだ生きていたら、私の横をまだ歩いていてくれてたかな?

この綺麗な大空を、一緒に見れたのかな?

私は涙をこらえ、グッと拳を握った。



“僕も、本当はもっと君と居たかったよ。”


誰にも見えなくなった彼は涙を流し彼女に抱きついた。

彼女がそれに気づくことはない。

ただ、 静かに2人、雲ひとつない青空が広がる大空の下で立ち尽くしていた。

12/21/2022, 1:02:00 PM