撫子

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 花占いより、ずうっと楽しくて美しい遊びをしましょうか。

 手を出して、と云われて、素直に従う方もいけないのよ? ほら、もう傷付いた顔をしているじゃない。嫌がってもいいのよ。

 お花じゃないのに、植物じみてほっそりとした指を、全部ひろげて不安そうに眉を顰めるあなた。その指の先に、ちょうちょに見立てた私の指先で触れていくの。
 花占いより、透明で、残酷なやり方で。

 好き、嫌い、好き、嫌い、好き

 右手は終わり。ここで終わりにすればいいのにね。分かっていて、どうして手を引っ込めないの? 続けてしまうわよ?

 続きから、次は左手。
 嫌い、好き、嫌い、好き──

 か弱い小指の上に指を止まらせながら、最後のひとつを声には出さず、代わりに蜜のように微笑みかけてあげるだけで、迷子の幼子のように揺れる瞳。
 嗚呼、なんていとけなくて、うつくしいの。
 指の数なんて決まっているのだから、嫌いから始めればいいのにね。
 終わりがこうなると知っていながら、私が最初に好きと口にする瞬間、ほんのり嬉しそうに目元を綻ばせるあなたは、この世でいちばん、儚く繊細なお花。私がなにより好きなお花。
 でもそれを告げたら、この戯れは終わってしまうから、まだ言わないの。私はあなたの心に刺さる、唯一の棘でありたいのよ。その代わり、他の何者にも傷付けさせはしないと誓うわ。

 たおやかで清らかなあなた。私だけのお花。

(繊細な花)

6/26/2023, 1:27:34 AM