神崎たつみ

Open App

 そんなものには縁などなかった。考える余裕だってなかったし、そもそもそれがどんなものなのか知る術もなかった。
 それが一転したのは親のもとを離れ寮で暮らすようになってからだ。いや、もっと突き詰めるならば、特待生になってTrickstarに出会ってからだろう。それまでのオレはアイドルにしか興味がなかった。親に見せて貰えていたのがアイドルだけという理由もあるけれど、自分自身が他を見ようとしていなかったのかもしれない。視野の狭かったオレの世界がそのときから一気に広がったように思えた。
 まずは仕事だったのにそこまで興味のなかったゲームの面白さを知った。最初は仕事で関わったし一度くらい触ってみるか、程度の認識だったのに、その場で出会った遊木さんの舐めた態度にムカついて乱入しまくった。ゲームはやったこともなかったのに。そして結局一度も遊木さんには勝てなかった。でもそうやって遊んでいるうちに、純粋に『誰かと遊ぶ』ということが新鮮に思えた。
 そのあと繋がったSNSによって遊木さんから色々なものがもたらされるようになった。流れて来るものを目にすると、これまで本当に視野が狭かったのだと改めて突きつけられた気分にもなった。
 情報収集は基本的に茨がやっているため、オレが自主的に行うことはほぼなかった。でも、流れて来る投稿を見て知らない言葉や内容を調べてみることで、見えていなかったものがどんどん見えるようになった。それが面白くて仕方がなかった。
 そうして気が付けば、これまで自分よりも上の人か蹴落とすライバルしかなかった関係に『友人』という枠が増えていた。それによって少しずつ心穏やかに接することが可能な相手も増えていく。
 そしてまた気付かされるのだ。更に別の枠が出来ていることに。得た知識の中にそういった話はあった。だからきっと、これは。

#恋物語

5/18/2023, 12:17:50 PM