《遠くの空へ》
月のない夜空を割いたのは、夏の風物詩。
実は地面と平行に打ち上がっており、真横からではそれとわからないものもあるという。
火で色彩を放ち、大輪を咲かせることの美しさ。夜の闇が深ければ深い程、その輝きはより一層人々の心を捕らえて離さないのだろう。
職人の手によって何時間も掛けて作られ、されど誰かの前で咲く時間はその何分の一にも満たないもの。
努力が儚く宵に消えてしまうからこそ、人は美しいと思うのだろうか。
ただの色の違うだけの、火であるというのに。
とはいえ、そんな野暮なことを考えていられるのは花を前にしていないからだ。
職人の手によって、空へと打ち上げられて。
ただ一心に遠くの空へと光の軌跡を伸ばして。
ある一点、花咲くことを定められた場所で光を霧散させて。
ようやっと、空に散った色が姿を現すのだ。
それが、思わず溜め息が出るような、打ち上げ花火というものではないだろうか。
光と音に圧倒されて、苦しくなるくらいに魅入って、花火を見る。
それを大会にした最初の人には感謝しかない。
屋台の灯りとも違って、普段よく目にする人工的な灯りとも、太陽の光とも、月の光とも違って。
花火、というもの自体も美しいのである。
4/13/2024, 5:08:50 AM