海を泳いで、泳いで、ようやく辿り着いた岸。
ざらざらの砂の上で、振り返った。
身体中に纏わりつく潮の匂いと一緒に見た風景は、キラキラ光っていて、美しい海だった。
家から逃げ出して、必死に泳いだあの大きな波間も、風景として見てみれば、ただのキラキラ輝く、海の波でしかなかった。
弟の、冷たい手を握って、海の風景を眺めた。
波がキラキラと揺れている。
遠く、遠くに、私たちの家があった陸が見えた。
逃げ出したのは、大人たちが危険になったからだった。
数ヶ月前からおかしかったのだ。
私たちの周りは。
大人たちが、ピリピリし始めて、
大人同士で喧嘩を始めて、
銃や爆弾が飛び交い始めて、
お母さんやお父さんや大人たちが、暴力を振い始めた。
だから、私たちは逃げ出すことにした。
弟を守るために。
地獄みたいな、家の周りの風景から逃れるために。
遠くから見ると、家の周りは綺麗な風景だった。
潮水と風に煽られ、手足が動かなくなるほど、喉を裂かれるほどに恐ろしかった大波と海も。
今、ここから見れば、青い波に現れた新緑の鮮やかな陸地でしかなかった。
背後には崖が立っていた。
これを登れば、別の国、別の地域に入れるはずだ。
家から見えた、あの美しい風景の国の中に、入れるはずなのだ。
弟の手を引いて、一歩踏み出す。
あの、遠くから輝く、美しい風景の中に、私たちも行くのだ。
私たちは一歩を踏み出した。
どこかで、家の近くでうんざりするほど聞いた、銃声みたいな音が聞こえた気がした。
聞こえた…気がした。
4/13/2025, 5:30:21 AM